━━甲斐地区躑躅ヶ崎女子高天守。

「理々杏様から、織田佑美を討てとの命令が出たわ。」
武田真夏は、真田純奈に言った。

「どうしたのでしょうか?」
と、純奈が訊く。

「佑美が色々と、理々杏様の行動を制限しているのが気に入らないようね。」
真夏が答える。

「しかし織田様とは、同盟関係にあります。」
と純奈。

「そうだけど、理々杏様の命令なら仕方ないわね。」
と真夏が言った。

「では...同盟は...?」
と純奈が訊く。

「破棄するしかなさそうね。
何だか私、同盟破棄キャラみたいになってない?」
真夏が悪戯っぽく笑った。

「それも、真夏様の良さです。」
純奈も笑顔になる。

「純奈、戦の準備をするわよ。」
真夏が言った...。


━━徳川七瀬は、浜松女子高天守にいた。

ここは遠江地区で、今川ちはるの領土であったが、今は徳川領になっていた。

「七瀬様!!」
と、本多花奈が天守に駆け込んで来た。

「花奈、どうしたの?」
と、七瀬が訊く。

「武田真夏の軍が攻めて来ました!!」
と、花奈が言った。

「分かったわ、戦の準備をして。」
と、七瀬は花奈に言った。

「かしこまりました。」
と言って、花奈は天守を出て行った。

「七瀬様!!」
しばらくして、また花奈が駆け込んで来た。

「今度は何?」
と、七瀬が訊く。

「真夏の軍が、浜松女子高を素通りして、三方ヶ原(みかたがはら)方面へと向かいました。」
と、花奈が言った。

「!?」
七瀬は驚いた。

まさか素通りされるとは、思ってもいなかった...。

━━武田真夏の軍、二万五千人の女生徒は、七瀬ではなく、その先にいる織田佑美を討つ為に進撃していた。

織田佑美は、いつの間にか尾張・美濃・摂津地区を治める大大名になっていた。

心して戦わねば、さすがの真夏もピンチになるだろう。

そんな状況で真夏は、徳川七瀬とやり合って、無駄な労力を使いたくなかったのだ。

「七瀬様、真夏は私達の事を舐めてます!!」
と、花奈が言った。

「真夏め...。」
と、七瀬は言った。

━━七瀬は、どちらかと言えば温厚な性格だ。
しかし、これには怒った。
独立して間もないから、相手にされていないと思ったのだ。

「花奈、真夏を討つよ。」
七瀬は花奈に言った。

「かしこまりました。」
と、花奈が答えた。


━━静岡県遠江地区三方ヶ原。
美濃方面へ向かって進んでいる真夏達の前方から、緑色の集団が近付いて来た。

━━徳川軍である。
それに気付いた純奈は、
「真夏様、前方より徳川七瀬の軍が近付いて来てます。」
と、真夏に伝えた。

「仕方ないわね...。」
と諦めたような表情をして、
「純奈、迎え撃つわよ。」
と言った。

武田真夏の軍と徳川七瀬の軍が、三方ヶ原で衝突した。

七瀬も今川の家臣時代から、二年生で岡崎の大名になるほどの実力者ではあるが、やはり真夏の方が戦慣れしている。

七瀬の軍は、あっという間に真夏の軍に蹴散らされ、壊滅状態になってしまった。

七瀬自身も命を落としかけたが、命からがら浜松女子高へと逃げ帰った。


「......。」
七瀬は、椅子に座って窓の外を眺めていた。

━━浜松女子高天守。
徳川七瀬、人生初の敗北である。

「私じゃ無理なのかなぁ...。」
と、呟くように七瀬が言った。

「そんな事ありませんよ。」
と、花奈が寄って来た。

「七瀬様なら大丈夫です。」
と言って、七瀬の前に顔を出した。

「?」
花奈は、七瀬の顔を覗き込んだ。

━━七瀬は寝ていた。
きっと、真夏との戦で疲れたのだろう...。

「!?」
花奈は、ニヤリとした...。


━━翌日。

「花奈ーっ!!」
大声で七瀬は、花奈を呼んだ。

「どうしました?」
と、花奈が七瀬に近付いて来た。

「どうしたもこうしたもないでしょ!!」
と七瀬は、パソコンの画面を指差し、
「何なのよコレは!?」
と言った。

そこには、浜松女子高のブログが映っていたのだ。

「私達のブログが何か?」
と、花奈は分からない様子。

「何がじゃないでしょ!?」
と、七瀬は再び指差して、
「コレ!!」
と、一枚の画像を指差した。

━━七瀬が椅子に座ったまま寝ている画像だった。

タイトルは、
《寝顔も可愛い徳川七瀬!!》
と書いてあった。

「あぁ、これですか。」
と花奈。

「これですかじゃないでしょ!!
恥ずかしいじゃん!!」
と、七瀬。

「だってぇ、あまりも可愛いかったので、つい...。」
と言って、花奈は舌を出した。

「ついじゃ、ないわよ、ついじゃ...もう...。」
と、七瀬はふくれた。

「七瀬様、プク顔も可愛いです!!
ブログに載せましょう!!」
花奈は目を輝かせた。

全く懲りていない花奈である。

「こらっ!!」
と、七瀬は怒った。

七瀬に対して、こんな事が出来るのは、花奈一人だけである...。