太陽3年5月のある日...。

花奈は七瀬が徳川七瀬と改名し、今川から独立した事を、岡崎女学院のブログで発表した。

この時代、自分達の学校で大きな動きがあった時などは、学校毎に持っているブログで発表する事が多い。

勿論、戦を仕掛ける時などは、ブログで発表しない。
例えば、朝廷の眞衣から官位(かんい)を授かった時などは発表する。

官位とは、その女子高生の位を意味するもので、正一位(しょういちい)が最も高く、次に従一位(じゅいちい)になる。
そして、正二位(しょうにい)、従二位(じゅにい)と続く。
新しく官位を女生徒に授けることが出来るのは、眞衣だけである。

但し、官位を授かった生徒が、それよりも高い位の官位を授かった時は、今まで持っていた下の官位は、自分の裁量で他の女生徒に与えても良い。

例えば、正二位を持っていた女生徒が、眞衣から上の従一位を授かった場合、正二位の官位を後継者の妹などにあげても良い。

この官位は、相当の権威を持っているので、大名である女生徒が、高い官位を授かった場合、それだけで他校が学校毎、その大名に従ってしまう事すらあるのだ。

官位自体には形がない。
少し意味合いは違うが、この時代の女子高生の“全国ランキング”みたいなものである。

━━花奈がブログを発信してから、しばらくすると、

《三河地区〇〇女子高等学校、これより徳川七瀬様にお仕え致します。》

《三河地区△△女学院は徳川方につきます。》

などと返信があり、三河地区の全学校が今川から徳川に寝返ってしまった。

━━今川美波の人柄の善し悪しは別として、他県の生徒に支配されている事に、みんな不満を持っていたようだ。

こうして徳川七瀬は、三河地区の全学校の大名となり、今川より独立した。

「━━七瀬が...!?」
ブログを見て、一人の少女が呟いた。

━━駿府女子二年生の今川ちはるである。
七瀬の独立...。

それに伴う、三河地区の全学校の寝返り...。
今川の領地は、駿河、遠江のみになってしまった...。

(このままでは終われない...。)
と、ちはるは思った。


━━真夏は考えていた。
ここは、躑躅ヶ崎女子の天守。

━━川中島から撤退した夜、躑躅ヶ崎女子に一実とかりんが来たのだ。

攻め込んで来た訳ではない。
永遠の眠りについた山本優里を、真夏の所へ連れて来たのだ。

「彼女だけは、あなたの所へ連れて来てあげたくて...。」
涙を堪えて、一実が言った。

「ゆ...優里...。」
真夏も涙目になる...。

━━この時代、あちこちで女子高生が命を落としている為、わざわざ大名の所へ返す事はない。

しかし、一実は優里だけは、真夏の所へ連れて来たかったのだ...。

「『武田家と真夏様は...私が守る...。』
彼女の...最後の...言葉だよ...。」
と、一実が伝えた…。

「優里...ごめんね...。」
と、真夏は優里を抱き抱えた。

「彼女は、命懸けであなたを守った...。
敵ながら...素晴らしい生徒だった...。
こんな素晴らしい子と...同じ時代に生きれた事を...誇りに思う...。」
と、一実は言った。

そして一実とかりんは、真夏の手の中で眠っている山本優里に対して一礼をした。

「私達は...これで失礼するね...。
かりんちゃん、行こう。」
と、一実がかりんを促す。

「かしこまりました。」
かりんが答えて、二人は戻って行った。

「...一実...かりん...。」
と、真夏が声をかけた。

一実達が振り返る。

「...有難う...。」
と、真夏は頭を下げた。

一実達は黙って頷いた...。

━━ある日、優里が真夏にお弁当を作ってくれた事があった。

「美味しい。」
真夏は、笑顔になった。

「嬉しいです。」
優里は言って、
「私、見た目はチャラいけど家庭的なんです。」
と、悪戯っぽく笑った。

真夏は、その笑顔で癒されていた。

━━もう、その透き通った笑顔を、見る事が出来ない...。

思い出して、真夏は涙目になった。

(優里達の想いを無駄にしないためにも、絶対に京に上る!!)

真夏は決心した...。