今にもキレる寸前、というかすでにキレ顔の深瀬くん。

ベッドの上でもなければ暴れていそうな雰囲気だ。


「圭悟、あのね」

「何でここにいんだよ!出てけ!!」

「圭悟…」


ああ、やっぱり。聞く耳を持たない。これじゃだめだ。


「とっとと出てけ!!てめぇなんか顔も…」

「深瀬くん!!!」


──距離を詰め、声を張り上げた。


ここは病院だってのに、わたしったら全くもう。


「…てめぇも出てけ。部外者がいらねぇことに首突っ込んでんじゃねぇよ」


近づいた距離のせいで余計に敵意にまみれた視線を浴びることとなり、辛さが倍増する。

怯んじゃだめだ。平常心、平常心。


「うん、部外者は出ていく。だからお母さんと二人でちゃんと話し合って。意地なんか張らないで、きちんとお母さんの話を聞いて、自分の本当の気持ちを伝えて」

「…ばっかじゃねーの。口出しすんな」

「馬鹿でごめんね。でもね、それで深瀬くんの気持ちを知ったら、お母さんだって二度と会おうとしないかもしれない。これから先、一生会わずにすむかもしれない」

「…」

「わたし達は帰るから、絶対にちゃんと話してね。お願い。じゃ、森野、帰ろう」

「お、おう」


状況は読めていないくせに空気は読める森野。

わたしの後をついて、二人で病室を去る。


「咲良ちゃん、ありがとう」

「──」


去り際に聞こえたお母さんの小さな声。

振り返り彼女の真っ直ぐな背中を見つめ、頑張ってほしいと心から思った。