「出待ち?」

「ちげーよ」


トイレから出ると、智樹が壁に寄りかかって立っていた。
あたしもその隣に並んで立つ。
少しだけ話をしてもバレないかな。


「言えないだけ?」


さっきの話題のことだろう。
智樹は探るようにあたしを見る。


「さみしくなくも、ない」

「なんだよそれ」


素直に認めるのがイヤで、あたしはヘンな言い回しをした。


「かわいくなくてすみませんね」

「そうじゃなくて。思ってること言えってこと」


智樹があたしの手を握った。


「…鳴海に手ぇ出すなって言った」

「うん」

「ぐらつくなよ」


智樹がため息混じりに言った。
それから空いてる方の手でポケットから何かを取りだし、あたしに向かって差し出す。
不思議に思いながらあたしはそれを受け取った。


「カギ?」

「そ。オレの部屋の。来るだろ」


当たり前のように言う。


「でも…。ホテルに荷物もあるし」


ってゆうか。
そもそも部屋に泊まろうなんて思ってないし。
話が出来ただけで十分。


「それならオレがそっち行こうか」

「いや、それはちょっと…」

「あのさぁ。久しぶりに会って、好きな人に触れたいと思うのは普通だろ」

「……っ」


あまりにも直球で恥ずかしくなる。
顔が熱くて、あたしは手のひらでパタパタとあおいだ。
それから一つ深呼吸をして。
気になっていたことを智樹に訊いた。


「智樹は?」

「ん?」

「さみしいとか、ないの」


智樹は少し躊躇いながら言った。


「オレは…言えないだろ」


その言葉に同じだとわかった。
あたしは智樹を見つめる。


「…あのね。智樹がさみしいときはあたしもさみしい」


智樹は嬉しそうな照れくさそうな表情をした。
その表情を見られないようにするためか、グッと握られた手をひっぱられる。
智樹との距離がゼロになった。


「葉月。キスしたい」


そっと耳元でささやく。
くすぐったくて、肩をすくめた。
耳が弱いのわかっててそういうことするよね。
あたしはささやかれたほうの耳を押さえようとしたが、その手を掴まれた。


「智樹…っ」


止めようとしたが智樹の唇が耳元から首筋にふれた。


「あ―…。葉月のニオイだ」

「ちょっ…、ストップ!」