小説の続きを読み進めようとしても文字が頭に入ってこない。


「札幌かぁ…」


思わずもれた、ため息まじりの言葉にはっとした。
聞かれてないかベッドルームに視線をやる。
シンと静かなまま。
あたしは短く息を吐き、小説をまたテーブルに戻した。
そして交換でスマホを手に取る。

アプリケーションを起動させ、東京から札幌までの移動時間を調べた。
半日。
…遠い。
またため息が出た。

ずっと、離れてるわけじゃない。
期間は半年。
仕事であたしも札幌に行く機会はある。
それでも。
なんとなく、モヤモヤする。
しばらくソファでボーッとして、あたしは寝ることにした。



隣りの智樹を起こさないようにそっとベッドに寝転ぶ。
智樹は背を向けている。


「もう読んだのか」

「読んでない」


あたしは智樹の背中に向かって話す。
寝たと思っていたのに、声がハッキリしている。
智樹の背中におでこをくつっけた。


「どうした?」

「うん…」


声が直接響いてくる。
低くてやさしい声。
なんだか泣きそうだ。


「さみしくなったか」


からかい半分の口調に、あたしは「んー…」と曖昧に返した。
智樹は「仕方ないなぁ」と言って寝返りを打とうとしたので慌てて止めた。


「そのままでいいから」

「オレの背中のほうが好きだよな」


嫌みっぽく言いながらも、智樹は後ろに手を伸ばしあたしの手を見つけるとキュッと握ってきた。
あったかくて、大きい手。


「子守唄でも歌ってやろうか」

「いらない」


ちょっと、不安になっただけ。
出かかった言葉をグッと飲み込んだ。


「ハスカップのお菓子、毎週じゃなくていいから送って」

「それだけ?」

「それだけ」


太るぞと言われたからくすぐってやった。