「痛み止めの他には何もないのか?」

「偏食をせず、祥を見習いなさいませ。其方は食が細すぎまする」

「それでは胃薬がいくらあっても足らぬ」

ハーン殿は「はいはい」と、俺の言葉をあしらった。

「ゆっくりと湯に浸かり、早めにお休みなさいませ。明朝の出立に間に合うよう、荷車をご用意致します」

「荷車? 風早殿に所望するのか? 南都に入って挨拶もしておらぬのに……それに、余は風早殿をまだ信用しておらぬ」

名目上は湯治だが真の目的は視察、別の言い方をするならば偵察の旅だ。

現に峠で出会った男は、風早の息のかかった刺客だった。

お忍びの旅にも関わらず、風早にはとうに俺たちの身分がお見通しだと言われているようで胸が騒いだ。

「ハーン殿。気遣いは有り難いが風早殿の手は借りぬ」

「承知いたしました。暁月から繊月までは用心のため、移動されませんよう」