「うわ、血まみれだよ。あんた」
「誰」
「僕はピアノ、そっちは?」
「なんだろ、名前。忘れた」
「じゃあそうね、夢だ。ゆめ。どう?」
「いいね。あ、僕は」
「そういや、今朝自殺した学生がいるって先生が騒いでたな。あんた?」
「そうかも」
苦しかったことなんてあったっけ?僕は確かに死んだ。なんでかわからない。いじめとかそんなんじゃなかった気がする。ああ、そうだ国語の作文で宿題が出たんだ。死ぬってなんだろう、そうだ。きっとあれは命の大切さを教えるためのテーマだったに違いないのに。僕は何を考えたんだ。窓から飛び降りる。
心臓はドクドク、至って普通に流れていた。それが一分間を二分割したみたいな、流れるような早さだったからなんだか本当に死なない気がしていた。
「うん、死んだ」
「あー。えぐい理由だね。それは栞に話すといい。哲学的なのはあいつの分野だ。」
「ふーん」
「それにしても、あれだね。じゃあここが心地よくなっても夢は死んでいけるのか?」
「そうしなければいけないなら」
「怯えないように合図をあげる。もし、そうなったらね。」
彼はそうして歌を歌う。
温かい笑顔で。
僕のことを変人だと否定しない嗤わない世界に僕は漂着したみたいだ。
それが良いことだったのか悪いことなのかは判断がつかない。ただ、ここで僕は今までの十四年間より濃くて大切な時間を過ごすんだろうなと、確信していた。
「なんだこれ、
あああ。走馬灯か」
校舎から出たらすぐさま倒れた。
昇降口は相変わらず夏休みなのか、下駄箱には靴のひとつも入ってなかった。そばにある水槽にも何もなくて、虚無感が僕を襲う。ひどいな、ひどい終わり方だ。
頭のなかをぐるぐるぐると回る。
記憶の中は皆との思い出。そしてそのほとんどをピアノが占めていた。僕は音楽好きだったんだ。唯一熱心に受けていた授業だった。


