「そうだな。まだ時間があるから話そうか」
落ち着いていた。君は真っ直ぐな瞳で僕を見据えた。蒼い海が目の前に広がる。生唾を飲んで僕は耳を傾けた。
「地球は丸いか?三角か?四角いか?
わからないね。地球は本当は何個もあるんだよ。たまたまここが丸かっただけだ。僕たちは死ぬことを恐れる。自ら死ぬやつはそうそういない。最初から死にたいやつなんていない。
だけど、考えてみてよ。それって生きるのも同じことなんだよ。だれも望んで生まれてきたんじゃないさ。
そう。だから死にたくない。きっとここからいなくなったら違う世界に行くんだ。そうだね、本の中みたいな色んな世界に。だけど皆自分から生まれたくないから、殺されるんだよ。
生まれてくるために。もしかしたら僕らもこの世界にくるために今みたいに無惨に殺されたのかも!」
彼は真顔で、僕を凝視した。さも楽しそうに声だけが進んでいって、顔は話し始める前の神妙な面持ちを崩さない。そんなアンバラスなズレが、なぜか僕にはズザリと刺さった。
それはその発言が本当は誰のものなのか、やっと気がついたからだ。
「それは、僕の言った言葉。」
僕が。逃げる。
壊されないように。
爽やかな彼は右手にカッターを持っていた。
僕はどうして思い出せなかった。
僕はもう死んでいるっていうのに!


