硬直しているあたしに今とは打って変わって明るい笑顔、明るい声色に変えた「乾杯!」とトシの声が前から響く。あたしは遅れるように「かんぱい」カタコトのようにそう言った。



何だろうこの胸騒ぎ。何か見てはいけないものを見たような気持ちだ。男の子ってこうもコロコロと表情が変わるものなのだろうか。



だけどそれからトシは一切あの恐ろしい表情はしなかった。



トシから言われた言葉には感謝したい。言ってくれたように光になれたらいいなって思えるよ。だからそれまであたしは笑顔を絶やさないでいようとも思う。だけどやっぱりその後に見た表情と聞いた言葉はどうしても忘れられなかった。




それからトシと色々な話で盛り上がった。



学校の面白い話、七不思議、理事長がイケメン好き、そんな話を聞きながらも紙コップの中身が無くなれば互いに注ぎあって会話に花を咲かせていたのだが。どうにも変だと気付いた時には妙に見える景色がふわふわと頼りなくなっていた。




「そんでねえ~あたしは言ってやったわけですよおー。そのキャベツは今あたしが取ろうとしていたキャベツなんれすけれろもって!そしたら奥様がさあ~」


「愛理さんちょっと飲みすぎじゃないっスか?水持ってきます?」


「はい?お水なんていりません。これは美味しいジュースれす!」


「え!?これ酒ッスけど…」



トシはそう言ってどう見ても爽健美茶と書かれている大きなペットボトルを揺らす。中身はほぼ空に近かった。



「俺達頭良いっすからね!ペットボトルの中に酒を忍ばせて持ってきたんです」



誇らしげにグーサイン。あたしも反射的にグーサインを出してからふと、黙り込み考えて結論に至った。こいつら頭の良さ履き違えてやがる。それはずる賢いと言うのだよ。