いやー参った参った。片手を後頭部に当てて笑うあたしをトシは穏やかな表情で見つめ、ふと姿勢を正すようにして投げ出していた足を引き寄せた。
それを見てあたしも慌てて紙コップを置いて正座する。
「皆何も言わないけど感謝してるんです。愛理さんと出会う前の皆は色々とあったせいで全く笑ってくれなくなっちゃって。だけど愛理さんと会ってから皆びっくりするぐれー元気になったし。」
嬉しい反面少し引っかかる言葉もあった。深く考えない方がいいと思っても 皆が笑えなくなったのは何でだろうか、そう考えてしまう。
「愛理さんと会って本当に少ししか経ってないみたいですけど、その短期間で笑顔にできることって凄い事だと思うんスよ。愛理さん良く似てるし、あいつに。だから俺達凄く驚いたけど、性格はきっと真逆だって信じてます」
「えっと…?」
「いえ、気にしないでください。ここに居る奴らを代表して優さんや翼さんや空さんや隼人さんに会ってくれて感謝してます。」
トシは深くあたしに頭を下げた。眩しい赤髪が目の前へと降りてくる。何故に改まって礼を言われてるんだあたしは、全く何もしていないのに。むしろ逆に申し訳なくなるじゃないか。
「や、やめてよ!あたし何もしてないんだよ。それになんの役にも皆の話だってまだ良く知らないし」
「愛理さんにならすぐ話してくれますよ。それに何もしてないって愛理さんが思ってるだけで 本当は沢山凄い事をしてるんじゃないスかね。些細な事でも有難い事ってあるじゃないですか、優さんもきっとそう思ってますよ」
それは絶対に違うと思う。あたしの方が二つも年上なのに4人の方がずっと大人な考えをもっていると思う。あたしは逆に助けられているだけだ。
あたしが黙りこんでいるとトシはあたしの紙コップを掴みにこりと笑う。
「愛理さんは何て言ったらいいのか、笑うだけで周りを元気にするみたいな感じッス。太陽?いや光みてえな感じかな?」
トシはにこにこしながらあたしに紙コップを渡してきた。その中に入っている飲み物が衝撃でゆらゆらと中から溢れそうになりながらも揺れていた。
「愛理さん、これからも俺らのリーダー達を明るく照らす光になってください。」
「そ、それってすごい重役じゃん!?あたしみたいなバカにできるのかな?」
「できますよ。できますから」
一拍置くようにしてトシがスっと音も無く、笑顔を崩した。真顔と言うよりも冷酷な表情にさえ見えた。あたしを射抜く瞳が鋭くなったのは絶対、絶対に気のせいでは無い。
紙コップを握った両手に力がこもる。言葉を失ったあたしにトシは、感情のこもらない声で。
「裏切らないでくださいね」
―――――そう言った。
