「別に取って喰いやしねえよ。俺うるさい女は趣味じゃねえからな」



未だ暴れるあたしをずるずると容易く引きずって行く空は暴言をぽんとこちらに投げてくるがそれでも安心できない。取って食うと言うよりもぶん殴られる方が心配だ。



抵抗虚しく引きずられ、部屋から出されたあたしが「怖いよー怖いよー」ガタガタ震えていると空は。




「お前、服無いんでしょうが。とりあえずいる物だけ買いに着いてってやるから」



そう言ってさっさと廊下を歩いて行ってしまう。



な、何だ。そうなのか。拍子抜け。



ファインティングポーズを取りかけていた腕をゆるゆると下ろし、空って意外と優しいのかもしれないと慌ててその後を追いかけた。



エレベーターがギリギリ閉まる一歩手前で滑り込む。ねえねえ今下手したら挟まりそうだったんだけどわざと?エレベーターに入る直前、君が閉まるボタン連打してるの見ちゃったんだけど。前言撤回やっぱりこいつ優しくないわ。



はぁーっと息を落ち着かせると空があたしの方をじーっと横から見てくる。




「何さ…」


「いんやー別に?」



そう言ってあたしから目線を外す空はエレベーターのボタンに無意味に視線を止めていた。



たったそれだけなのに横顔がやけに艶っぽいというか妖艶と言うか、不思議だ。しかしなんで双子で顔がまったく一緒なのに翼とは見え方が違うのかね。



軽い音とともに一階に到着したエレベーターからまた空がスタスタと早足で出て行ってしまう。



ちょっとちょっと。着いてきてくれるなら歩幅くらいあわせてよ!あんた女の扱いに慣れてるはずでしょう!それとも何か、あたしは女じゃないからそんな扱いする必要もないと?ありえますね。



「なんでさっき、俺が怯えてるなんて言ったんだ」



前をスタスタ歩いていた足を止めあたしに振り返って聞いてくる空の顔はまた苦手な顔だった。