「ひいっ!ごめんなさい!!」
「空、落ち着けや。愛理ちゃんはこういう話と無縁な子なんやからしゃーないやろ」
「だとしても腹たつわー」
左手の平に笑顔のまま右の拳を強くスパンスパンと叩きつけ見せる空に「ぎゃあああっ」椅子の背もたれにへばりつき仰け反る。今にもその高速パンチが飛んできそうだ。
「あのなあ間違いなくお前を使う手はねえって他の奴らは思うだろうな。俺らと一緒にいるってのはそういう事だろ。バカが考えたって分かる事が何で分かんねえんだ」
「そそそ、そんな事言われましても」
「いいか俺が優達とは敵対してる高校なら確実にお前を使う。」
スパンスパンと撃ちつけていた片手がテーブルを滑る。まるでヘビのようだ。するすると這うようにしてこちらに近づいた空の手があたしの手首を捕え引き寄せた。
お腹がぐりっとテーブルの角に抉られる。痛い。
「優や隼人や翼みてえに時間がかかる相手はまず使わねえ。じゃあ下の奴等を使うか?それよりお前を使った方が楽で確実だ。何されるか想像してみろ。相手はきっと容赦ねえだろうな。お前の事ズタズタにするんだよ?そうして俺達の秘密を聞き出す。俺が敵ならまずそうするな」
これは空からの警告だ。この意味が分かってるのか。そう鋭い視線で言い聞かせられる。意味は重々理解できた。お腹に突き刺さるテーブルの角もプラスされてハッキリと。
「いっちょ前に隼人に同情する前にお姉さんの覚悟があんのかって俺は聞きてえわけだ。お姉さんが仮に他校の奴等に拉致られて、その時俺らの秘密を少しでもバラすようなら」
空がさらにあたしの手首を引き寄せる。そこで隼人くんと優が椅子から立ち上がり空を止めようと手を伸ばしたがそれより早く、あたしの耳元に空が唇を寄せた。
甘いものとは全く違う、冷酷でゾクリと背筋が震える声色だった。人でも殺せそうなほどに。
「俺がお前を殺してやる」
これはあたしの勝手な推測。――――だけど空は皆を…仲間を守りたいんだと思う。
やっと1人の女に心を開きかけてる隼人くんを裏切るようなら今すぐ出てけと。優や翼には今まで何があったのかなんて分からないけど傷つけるようなら許さないと。