この部屋の住人でも無いのに、言った後から何を言っているんだと恥ずかしくなったけど、押し黙ったあたし同様に優も。
「………」
大きな瞳をパチンパチン何度か瞬き、口をむむむ何故かへの字に曲げて黙ってる。瞳だけはあたしにしっかり向いたまま。
―――――そうして数秒後。
「―――ん…行ってきます。」
おずおずとそう答えた優は静かに寝室の扉を閉めて出て行ってしまった。廊下をひたひたと歩いて遠くなっていく足音が微かに届く。何となく気恥ずかしくて玄関までは送れなかった。
数秒前の優の顔が脳裏で揺らめく。一瞬だけ、どこか懐かしむような切ないような顔をしてた気がしたけど。気のせいだったのかな。考えても答えは出ないので早々とその考えを消し去っておく。
優が出て行ってしまってからふと思う。
あたしは何をしたらいいのだろうか。
優はいつまで居てもいいと言ってくれた。あれはたぶん本心…だと思う。昨日の優の感じだと何か裏がある感じはしなかったから。
だけど、どうしてあたしみたいなどこの誰かも分からない女を置いてくれるのかな。
うーん。うーむ。顎に手をかけつつ頭をぐりん、傾げてみる。茶金の長い髪が肩から滑り垂れ下がる。
―――――駄目だ。やっぱり考えても分からん。
だけど、勝手にお礼も言わず出て行くのはそれはそれで気が引ける。優が帰ってきてからお礼を言って出て行こう。昨日泊めてもらえた事だけでも感謝しなくては。