「うん、おはよ。俺学校いかなあかんから。愛理ちゃん適当に家漁ってええから、暇潰しておいて。夕方くらいには帰ってくると思うから」



学校――――、ああ、優は大人っぽいけどまだ高校生なんだっけ。ボンヤリと記憶を手繰り寄せながらも上体を起こして部屋を見渡してみる。




ふっかふかのあたしが眠るダブルベッドと中身は空っぽだったけどこの部屋に入った時から置かれていた大きめのタンスが置いてあるだけの部屋。ここは優の住むマンションの一室だ。



「後ね、携帯なんやけど。愛理ちゃんの携帯に俺の電話とアドレスも勝手に入れておいたからなんかあったらいつでも連絡してきてええからな」



優が優しくポンポンとあたしの頭を撫で、あたしの手に携帯を渡してくる。勝手に人の携帯いじったんかーい!と突っ込みを入れたかったが、優のくしゃくしゃとあたしの頭を撫でる仕草にぐぐぐっ、押し黙る。



「ほな行ってくる」


「あ!!ちょっと待って」


「――っ、」


あたしの頭からゆっくりと手を離す。何となくそれが名残惜しいなと思っていると、優はさっさと部屋から出ていこうと足を外へと向けた。それを見て反射的にベッドから飛び降りて、優の背中を呼び止める。



片手を伸ばしたものの掴み損ねて結局、空を切る羽目に。




無意味に掴み損なった手が行き場を失いだらりと落ちる。それが恥ずかしくて両手を合わせるように交差させ。



「い、いってらっしゃい」



もじもじとそう答えておいた。