いやいやあたし悪くないから。絶対悪くないから。悪いなんて認めないから。そっちが喧嘩売ってきたんじゃないか。こちらもこちらでプクリと頬を膨らませて数歩後退する。
「空、後始末終わって先着いたみてえだ。ったく男の胸倉掴むなんて信じられねえなてめえは。」
「あたしもびっくりだよ。でも人間本気でムカついた時って周りが見えなくなるもんなんだね」
「冷静に判断してんじゃねえよ」
いやいやだってそうじゃないか。まさかこんな得体の知れない男の胸ぐらを掴みグラングラン揺さぶってしまうとは夢にも思わなかったわけですから。
他人事のようにそっと考えていると、翼は痺れをきらしたように。
「さっさと行くぞ!」
あたしの腕を再び引き寄せる。今度はそんなに痛くは無かった。
「ちょっとどこ行くのさ。あたし行かないよ。あんたみたいなバカと付き合ってたらあたしまでバカになっちゃうし!」
「十分お前もバカだろ!!っつかこっちは忙しいんだよ!まじでめんどくせえ女だな!!」
そう言ったかと思うと翼はあたしを強く自分へと引き寄せて、腰を一旦落とし軽々と肩に担ぎ上げた。ふわりとした浮遊感、世界がグルリと一回転。
見えるのは暗い空では無く暗い地面とズンズン突き進む洒落た翼の靴で。
「ぎゃあ!変態!痴漢!拉致だ拉致!!警察に訴えてやる!!おままっ、おまわりさん!!」
「はあ?おまま、おまわりさんって何だよ。日本語喋れ。さっきから本当うっせえお前。そのお口チャックしてくだちゃいねー」
「子供扱いすんな!年上って言ったじゃないか!」
「全然見えませーん」
あたしの非難の声を無視して翼はずんずん高級住宅街が立ち並ぶ道に足を向けていく見た事も無い高くそびえ立つマンション、屋敷のような家、それらを通り越していくうちに段々と抵抗力を失って翼の肩で静かにしていた。
