利用出来るものは利用する奴らだ。今日、トシの彼女を利用しようとしていたように、あたしだって優達と顔見知りだと向こうが知れば同じ事をするに違いない。
未だに思い出しても腹が立つ。
エレベーターに乗り込み、最上階に着いた所で怒りをぶつけるように廊下で地団駄踏む。あいつら本当に許せない。女を何だと思ってるんだ。
「最低な奴らだ」
憎しみを込めるように一言呟く。怒りを一旦振り払うようにして最上階に一室だけある、優の部屋へと押し入った。買い物袋を抱えて脱衣所を通り過ぎ、足を止める。
「うわ…」
脱衣所の鏡に映ったあたしの頬は酷い事になっていた。【傷】そう言われていた意味がようやく分かった。真っ赤になったそこには引っかき傷のようなものが濃く残っていた。血の跡も薄らとある。
これは確かに傷と言った方が合ってる。
まじまじと鏡と向き合いながらも片手で薄らと滲む血の跡を脱ごうとした所で。
「こらこら待て待て」
鏡越しに映った入口にスっと音も無く空が現れた。幽霊のようにスーっと現れたものだから驚いた。いったいいつの間に入ってきたのか。
「け、気配無かった」
「歩み寄るのがうめえのよ。それよりお前、そうやって拭うな。女だろうが一応、一応な」
おい、一応強調して言っただろ。
「空だけ?皆はどうしたの?」
「俺じゃ不満みたいな言い方だねえ。他の奴らはもうちょっと探してみるって言ってたぞ。お姉さん一人だと心配だから俺一人先に帰れって優がね、―――これ買ってきたけど意味無かったみてえだな」
体ごとゆっくりと振り返り空と向き合う。空もまた、あたしが片手にぶら下げているコンビニ袋と同じ物をぶら下げていた。透けて見える中身まで一緒らしく、冷えピタの文字が。
「翼か?」
「あ…うん。買ってくれた」
「へえー、珍しいねえ。あいつがねえ…ふーん」