マンションの前にたどり着くと、翼はシートから乱暴に買い物袋を取り出してあたしへと押し付けた。さっきまでのチラリと見えたあの優しさは何だったのか、あれが霞むほど乱暴な渡し方。




「さっさと入って、手当てしとけ」


「分かったよ。優しいのか優しく無いのかどっちなんだ。わかりにくいな」


「何か言ったか」


「言ってませんー」




周りをグルリと確認する。人影はあたし達以外には無さそうだ。翼もそれを確認したからか言葉は何も無く顎でグイっと中に入るように指図される。



顎か!突っ込みたかったけれど、言葉を飲み込んであたしは急いでマンションの中へと入った。




丁度くぐった自動ドアが閉まる間際、けたたましい音を鳴らしバイクにエンジンがかけられた。




ハっとして振り返ると、バイクに跨った翼がヘルメットを被りながらも気だるげに言う。翼にしては珍しく小さめの声だったから、本当にそう言ったのかまでは定かじゃなかったけど。



「女が顔になんか怪我してんじゃねえよ。まじで嫁に貰われなくなったらどうすんだバーカ」



と言った気がした。それを確かめる前にバイクはまた走り出してしまった。



「送ってくれてありがとう」言い忘れちゃったな、そう思ったときには既に翼の乗ったバイクはマンションの敷地内を抜けた所だった。




コソコソと隠れるようにマンション内に入って息を着く。空が言っていた事はこういう事か、今更ながら実感した。