「あの人はアホやで、何やっても空回る人。やけど確かに喧嘩は強いし人からも慕われる感じやな」


「優は関さんが好きなんだね」


「誤解がありそうやから慕ってるって言うてほしいかなー」


「それは失礼。慕ってるんだね」


「まあ、憧れて高校入ったくらいやからな。---やけど…」




おかしそうにクスクスと笑っていた表情がピタリと至極真面目なものに変わった。空気も何となくズシリと重たくなった気がして、あたしはさらに姿勢をシャンと正す。



何となく、嫌な予感がした。



「俺が高1になって夏になる少し前、関さんの親父さんが病死してん。」


「…え、」


「関さんにはまだ小さい妹がおって、母親と妹を自分が支えなあかんからって学校辞める事に決めたんやけど、そんな話聞いたら俺らは何も言えへんやん?」


「そう…だね」


「ほんまは「嫌だ」って皆言いたかったと思う。それでも関さんの決意の方が勝ったから、」




優の話に寄れば、関さんは学校を辞める日、全員をグラウンドに呼び出したらしい。



ジリジリと暑い日差しの下、檀上でマイクを掲げる関さんは自分の切なさを吹き飛ばすような笑顔を浮かべていたとか。



あたしは直接知らない人だ、けれどそれを想像したら酷く胸が痛かった。きっと強い人なんだろう。心が。泣き崩れたっておかしくない、そんな状況の中最後の最後笑って見せたその人は凄い。



「関さんは自分がリーダーを辞める代わりに、リーダーを次に努める奴を選ばなあかんって言いだして、それで選ばれたのが」


「優なんだね」


「うん、あの時は悪い冗談かと思ったけど」



関さんが選んでくれたからこそ北原のリーダー、優が今ここにいるんだね。