「千里はお医者さんになるの?」


「そうだよ」


「風の病気を治すため?」


「そう。風の病気はとても難しいものなんだよ。全身の筋肉が徐々になくなっていってしまう病気」


「風は、いつか死んでしまう?」


どうしてそんな意地悪な質問をするのだろうと、本から顔を上げてチアキを見る。


チアキは今にも泣きだしてしまいそうな顔をしている。


「泣きそうなときは空を見るといいよ。空はとても広いから、涙なんて引っ込んじゃうんだから」


あたしがそう言うと、チアキは窓へと近づいて行った。


あたしもつられて窓の外へと視線を向けた。


とても天気が良くて暖かな春の日だった。


「風は、死んじゃうの?」


窓の外を向いたままチアキが聞いて来た。


あたしは一瞬言葉に詰まった。


「チアキだって、知ってるでしょ?」


風の寿命は20歳までもつかどうかわからない。


高校を卒業できないかもしれないのだ。


それは風があたしに教えてくれたことだった。