花火の音を後方に聞きながら歩いていると、小高い丘が見えて来た。


海からさほど離れていない場所にこんな丘があるとは知らなかった。


「この場所はとっておきの場所なんだよ」


少女はそう言い、丘の上に設置されている木製のベンチに座った。


ベンチと自販機が１つあるだけの、小さな広場みたいだ。


確かに、ここからなら視界を遮られずに花火を見る事ができる。


あたしは少女の隣に座って空を見た。


色とりどりの花火が音楽に合わせて打ち上げられている。


バラバラと舞い落ちる花びらが綺麗に待っているように見えた。


「あなたは、誰？」


あたしは空へ視線を向けたまま、少女にそう聞いた。


「あたしはチアキ。チアキだよ」


少し怒ったような少女の返事が聞こえて来た。


チアキ……。


その名前に心当たりがないか記憶を探ってみるけれど、やはり思い出す事はできなかった。


その事を察したのか、小さなため息が聞こえて来た。