「そんなの、また忘れればいい。病院だって卒業する場所だって、俺言っただろ? 千里だけが、あのゆびきりのせいで卒業できずにいるなら、それなら俺の事を忘れても――」


あたしは気が付けば風の前に戻ってきていた。


そして、その白い頬を叩いていたのだ。


バシッ! と頬を打つ音が病室内に響き渡り、自分の手がジンジンと痛んだところで、あたしは自分がしてしまった事に気が付いた。


「あ……」


言葉が出なかった。


目の前には驚いた顔をしている風がいる。


「ご、ごめ……」


ちゃんと謝ろうと思ったのに、言葉が喉につっかえて出てこない。


そんなあたしを見て、風はほほ笑んだ。


いつもよりも、ずっとずっと悲しそうな表情で。


あたしはそんな風に何も言えず、逃げるように病室を出たのだった。