「約束だけじゃない。風の事だって忘れてた」


「なに、言ってるんだよ」


風は微かに笑ってみせた。


だけどあたしは真剣なまなざしを風へ向ける。


知らない間に拳を握りしめていて、手の中にジットリと汗をかいていた。


「風、笑わずに聞いて?」


「千里……」


「あたしはこの人生を繰り返してる。高校を卒業しても、時間が戻ってあのゆびきりの日に帰っちゃうの。


今まで150回それを繰り返してきて、それでも自分の人生を変える事ができなかった。きっとあたしは頑張ってた。


風の事を忘れないようにしてきたはずだった。だけどダメで、そのことすら記憶から消えてしまった。



だけど151回目の今回は、こうして風と一緒にいる。風の事を忘れてなんてない。あたしの夢がなんだったのかは忘れてしまったけれど、風の事は覚えてる」


ゆっくりと、できるだけ丁寧に伝えたつもりだった。


手の中の汗をスカートで拭う。


緊張から背中にも汗が流れて行った。