あたしは小さく息を吐き出すようにして笑った。


あたしはずっと風の事を忘れていた。


150回も繰り返していたのに、ずっとずっと忘れてきたんだ。


それは期間にすれば一体何十年分になることか。


「悪いけどあたし、風と別れる気はないから」


あたしはハッキリとそう言い切った。


風は驚いた顔をしてあたしを見る。


「花火に行けなかったから、何? そんなの毎年色んな場所でやってるんだから、風の体調に合わせて行きたい場所に行けばいい。おまけにここの屋上から見える花火はきっと最高なんだよ? ここから見ればいいじゃん」


あたしは早口でそう言った。


風は唖然としたままあたしを見つめている。


「だからさ、花火に行けないくらいでそんなこと言うのやめなよ」


一気にそう言って、大きく息を吐き出す。


すると風はプッとふきだして笑った。


熱のせいか弱い笑い声だったけれど、とても楽しそうに、そして嬉しそうに笑った。


「千里の言う通りだ」


風はそう言い、あたしの手を握り返してきたのだった。




その夜風と一緒に見た花火を、あたしはこれから先も忘れることはないだろう。