しかして、少しでも“足し”になればいいと彼はこうして物語の中に入っていく。

様々な住人と遠巻きながらも触れ合い、去るがーー最後には結局、自身は“部外者”であると突きつけられる気分になるのだ。

ひねくれているに違いない。
あまりにも一人の時間が長すぎて、性格が歪んでしまったか。これから、途方もない日々を生きなければならない自分にとって未来についての想像などしたくなかった。気が触れてしまいそうだからしたくなかった。しかし。

「生きていれば、か……」

分からないからこそ期待する。
やけに響く言葉だと、そのカメがいた本を彼は本棚の一番取りやすい場所においておく。

棚と言っても、木で出来ているものではない。彼が産まれた場所は、空間自体が本棚だった。何もない場所のはずが、本を差し込めば宙に浮き、並べていけばきちんと整列する。

それが空まで続き、果ては見えない。
どこまで行けるのだろうかと試したことはあるが、『果てなどない』との結論に至るほど無駄な時間を過ごしたものだった。

宇宙のように日に日に広がる空間(本棚)の中で産まれた彼は、そこで目を瞑る。時間が流れているかも止まっているかも分からない膨大な世界は、自身の存在まで呑み込まれそうになるためあまり好きではないが、本の世界を行き来するにはここを中継点にするしかない。

しばしの休息ーーとは言っても時間の概念がないここでは、ひょっとしたら目を瞑るだけで一年の月日が経っているかもしれない。カメに忘れられてしまわないかと、慌てて、目を開けて。

「何を、しているんだか」

所詮は“部外者”の独りよがりだと、彼は自虐的に前髪をたくしあげる。

あの本は、いつの間にかなくなっていた。代わりに見たこともない本が並んでいる。

「……そうだ、俺は誰とも」

関わったところで、余計に虚しくなるだけだ。あのカメには居場所がある。綺麗に整った輪の中で生きて、役割を持っている。そこに“部外者”の俺が入ってーー

「っ!」

どうなるわけでもないのに、彼は本を手当たり次第に引っ張り出した。

「ちがう、違う!」

無造作に暴力的に、されど、一冊一冊“確認”しながら。

「“これじゃない”……!」

彼は、本の山を築き上げていく。