「それで、“みんな”を消してしまってもいいんですか」
ウィルの笑いがなくなる。
残ったのは涙のみ。吐きそうなほど涙しているウィルは、私が言ったことに気づかないわけがなかった。
先刻、私がその事実を話そうとするだけで言わせまいと首を絞めてきたけど、今は違う。
「あなたは、優しすぎる。どうしようもなく、優しい人です」
彼のもとから離れる。今度は私を止めることはしない。彼の代わりを私はしているのだから。
「あなたがそんなに悲しむのは、何度も悲劇を繰り返す自分の罪に堪えられないからじゃなく、“みんな”に何度も悲劇を歩ませるのが堪えられなかったから」
私には彼のような力はなく、野々花のような強さもない。特筆した面なんてない、どこまでも凡庸な私に出来ることは、こうして言葉をかけることしかない。
「あなたの苦悩は“みんな”に伝わっていましたよ。街の人ーー子どもでさえも、あなたのことを気にかけていた」
ハッピーエンドを望む青年は、ただひとえにみんなーーこの物語にいる全ての人を幸せにしたいからに違いない。自分のためだけに動く人ならば、この物語は最初から存在などしていないんだ。
「あなたは、私やセーレさんと出会ってまた生きようと思ったと言いましたが、私やセーレさんがいなくてもあなたはきっと、物語を進めることが出来た。“みんな”がいる物語を一番崩壊させたくないのは紛れもなくあなたなのですから」
ウィルとの距離が縮まる。聞きたくないと耳を塞ぐその手を取る。


