「何の本……?」
白く豪華な装丁の分厚い本だった。表紙には金色の布をまとった翼の生えた女性の絵があり、題を打っている箇所には不可思議な文字が綴られている。
日本語はもとより、英語でもない。象形文字の類に近く、私に読むことは出来なかった。
開いてみれば、万年筆で綴られた文字があるがそれも解読不可能。それが何ページかあり、あとは白紙のページが続いた。こんな豪勢な本なのにいったい何故と、パラパラとめくっている内、おかしなページにたどり着いた。
「落書き?」
本の挿し絵にしてはとても不出来なクレヨンで書かれた絵が何枚かあった。もうしかしたら、私がこの本に落書きしてしまったのか。しかもか、一ページ無造作に破ってしまった痕もあるし。
図書館スタッフとしてなんて罰当たりなことをしていたと思うが、今はそれに懺悔する暇はない。
最後のページまでたどり着くが手かがりはなし。ふりだしに戻るかと思えば、落ちていた本はもう一冊あった。
少し距離があり、気づくのが遅れた。今度は黒い装丁のーーいや。
「腐食している?」
黒と紫に蝕まれた薄い本。生物のように酷い悪臭を放ち、端から溶け始めている。
手に取ることさえも阻まれるが、まだ腐食しきっていない上部には私にも読める字で。
「これ……!」
笛吹き男と題打った本を開く。
手に粘り着く感触に嫌悪を示す暇もなく、ページをめくる。どのページも黒いが、最後のページには。
ポツンと、今にも消え入りそうな白があり、気付けばそこは。


