物語はどこまでも!


いつかの親友との言葉を思い出す。

『“それ”は全てを捨ててまで欲しいものか』と親友は訊ね、自身は否定した。

『家族や友人に何かあっては死ぬほど後悔する』と何の躊躇いもなく返せたはずだった。


今ここで倒せねばいけない敵を屠るためと、“理由付け”が出来たぐらいで許されるものだと勝手に判断した。己の命を安く見過ぎた。己は、大切なモノに愛される尊き命を持っているというのに。

腕の中で身じろぎする最愛に、『何があってもどうにかなる』とは思えなかった。

何かあってからは遅すぎた。
いくら治癒出来ると言えども、彼が今受けている痛みは何だと言うのだ。

主を助けるがためここに来るまでの焦燥。
か弱き体躯で巨大を前にした時の恐怖心。
大切なモノを守らんと立ち向かった覚悟。

それらが全て帳消しになるわけがない。
自身はそういったものをこの小さな体に傷と共に刻みつけてしまったと、喚きたくなる。

『産まれる時代を間違えた。ーーでも』

「私は、愚かだ……!」

“間違えて良かった”。そう思わせてくれた相手に、野々花は謝罪する。


許して、許してーー
言葉にならない声が涙と共に彼へ落ちる。

「の、ノノカ……。ひ、ひどい傷。は、はやく逃げましょう」

意識を取り戻した彼の言葉に、野々花は稚児のように泣きむせぶのみ。彼のもとまでたどり着いた体は半ば意思の力でついたようなものだった。これ以上は動ける気力も残っていないと、彼女は彼を抱き締める。

「某のせいで、あなたは……本当に」

ゲノゲであったころから自身は成長していた。野々花とて同時に更に強くなった。

しかして、今の姿が昔の彼女に想像出来るだろうか。聖霊一匹が傷ついた程度で戦意喪失をする女の姿など。

「優しくなりすぎです」

それを弱くなったとは言わない。決して、言わない。

それを踏まえて、彼女の強さであると彼は知っているから。

「某もあなたのために、強くなりたいと思った……!」

温もりから離れる。悲鳴のような名呼びは後方から。

咆哮続ける怪獣は、痺れを切らしたかのようにまた地団駄を踏み始める。巻き添えという形で二人共々潰されてしまう前に、彼は向かってみせたのだ。

大切な誰かのために、己を犠牲にするその精神。正にそれはーー