お茶を出すと、千恵子さんはお茶に口を付け、溜め息を吐いた。

 千恵子さんの目の前にはお母さんの写真が置いてある。彼女はお母さんの写真を見ながら目にハンカチを当ていた。泣き出すわけでもなく、唇をじっと噛み締めているようだった。

「わたしのことは憶えてないでしょうね。あなたの小さい頃一度会ったきりだから。あなたが四歳のときだから」

 わたしは千恵子さんの言葉に頷いた。

「それでもあなたのことは千明から聞いていたわ。あなたの小学校、中学校、最近だと一か月前に電話をもらったわ。あなたのことをとても嬉しそうに教えてくれたの。いままで大変だったでしょうね。千明もあなたに不自由させているんじゃないかと気にしていたの」

 わたしは首を横に振った。その言葉に目元がじんわりと熱くなる。

「そんなことないです。お母さんは一人で大変だったのに本当に良くしてくれたから。むしろ幸せだったと思います」

 その言葉に千恵子さんは笑みを浮かべる。彼女の笑みは心から嬉しそうだった。彼女の笑みを見ていると、不思議な気分になった。

「あなたは本当に千明に似ているわ。まるで若い頃の千明を見ているみたい」

「そうですか?」