その日の帰り、わたしは気晴らしも兼ねて、いつもと違う道を歩いて帰ることにした。

 知らない人の家の前を通ったとき、人の話し声が聞こえてきた。楽しく会話をしているというよりは内緒話のように押し殺した声だった。

 本能のようなものが働いたが、素知らぬ顔でその家の前を通り過ぎようとした。
 そのわたしの足がぴたりととまった。

「わたしも聞いたわ。藤田さんのお孫さん帰ってきたってね。姿は見ていないけれど、どんな感じなの? 今、高校三年ということは、やっぱりあの人との子供なのかしら?」

 間違いなくわたしのことだ。そして、あの人、という言葉に心臓をわしづかみされたような痛みを覚えた。この人たちはわたしの父親のことを何か知っているのだろうか。


 わたしは電柱の影に隠れると、二人の会話に耳を傾けていた。

「学校帰りに見かけたけど、顔は千明ちゃんに似ているわ。二股かけていたら別だけど、そうじゃなかったらそれしかないわよね」


「そう。父親に似ていたら面白かったのに。でも、この町に帰ってくるなんて図太いわよね。あの人が父親なら、財産目当てだったりして」