自分を思っている人がいるが、彼自身も好きな人がいる。きっとものすごく彼自身も複雑なんだろう。
 それなのにわたしをあんな形で庇ってくれた。その好きな人に知られてしまえば、彼自身も嫌な思いをするだろう。そのとき、真一の言っていた、彼は優しいの言葉が現実味を増していった。

 それなのにまだわたしはお礼を言っていない。
 勇気を出して言葉を紡ぎ出した。

「今日の昼のこと、庇ってくれてありがとう」

「礼を言われるようなことはないよ。あいつら言っていること支離滅裂すぎ。ただの八つ当たりでしかないし。気にするなというわけにもいかないけれど、ああいうやつらは相手にしないほうがいいよ」

 優しいという言葉とは程遠く感じる強い口調でそう言った。だが、その口調のきつさが不思議とわたしに安堵感を与えていた。

「わたし、気にしていないよ。平気」

 わたしの言葉を打ち消すような強い口調で三島は言い放った。

「無理するなよ。高校のときに母親が自分を妊娠していたっていうのはおまえ自身が気にしていることなのだろう?」

 わたしは三島の言葉に何も言い返せなかったが、不思議と嫌な感じはしなかった。寧ろ、わたしの気持ちを分かってくれることが嬉しかったのかもしれない。

「でも三島くんまで嫌がらせ受けたりしないかな?」

「俺はこの学校でダントツの成績取っているから、そうそう嫌がらせもできないよ。下手に動いて、先生たちに目をつけられたくないだろうしな。今の校長はこの町の出身で、結構大きな家だからね。だから、これ以上どう思われようがあまり関係ない。どうせ、あと半年で卒業なのだから」

 三島さんはわたしを見ると、優しい笑顔を浮かべていた。それは昨日見たときと同じ表情だった。

 この人は学校内にいるときだけ他の人との間に壁を作っているのかもしれないという気がしてならなかった。