「構わないよ」

「三島先輩」

 凛とした声が辺りに響く。彼女の声は振り向かなくても誰だか直ぐに分かる。

 由紀は三島さんの傍まで来ると、三島さんに微笑みかけた。三島さんも由紀に釣られるような形で笑顔を浮かべていた。

「今から帰りですか?」

「委員会か?」

 三島さんは由紀が胸元に抱えている書類の束に目を向けると、そう言った。

 由紀は三島さんの言葉に笑顔で頷いた。
 その雰囲気は親し気で、付き合っているといえば、そう見えなくもない。
 千恵子さんは否定していたけれど、仲がいいことはいいのだろう。

「ハイ。まだ仕事残っているのでじゃ、また今度」

 由紀はわたしをチラッと見ると、頭をペコリと下げ、来た道を戻っていった。

 三島さんは由紀の後姿を見送りもせず靴箱に手を伸ばした。
 三島さんは靴箱から革靴を取り出すと履いていた。

「早くしろよ」

 三島さんに促され、下履きに履き替えた。三島さんは全く由紀のことを気に留めていないようだった。

 わたしが靴を履き終える頃には三島さんは外を伺っていた。わたしが傍まで行くと、傘を差し出した。

 その傘は大きい傘でわたしと三島さんの身体をすっぽりと包み込んでいた。
 あまりに普通に帰る準備をする彼を見て、わたしは思わず問いかけていた。

「由紀さんはいいの?」

「なんで?」

「傘もってなかったりするかもしれないよ」