「ありがとう」

 真一は笑顔で紅茶を受け取った。彼は既にわたしが差し出したカレーパンをあっという間に平らげてしまっていた。

 真一はペットボトルのお茶に口を付けると、半分ほど一気に飲み干す。余程喉が渇いていたのだろうか。

 ペットボトルを間違えて購入して良かった。

「今日、弁当も財布も忘れてしまって助かったよ」

 わたしは大げさな真一の言葉に笑顔を浮かべる。真一はわたしの顔を見て困ったように肩をすくめる。

「誰かに借りればよかったのに」

「実は人に何かを借りるのがすごく嫌でさ、一日くらいなら我慢できるかなと思ったんだよ。見返りを求めらるのも困る」


 真一は溜め息を吐くと、膝の上に両肘を置いた。

 わたしは真一の言葉を聞いて意外な気がした。わたしに軽い口調で話しかけてきたことや、クラスの子が真一は皆に優しいと言っていたこともあってフランクな人だと思っていたためだ。


「だったら、由紀さんか三島くんに借りればよかったのに」

 あえて由紀さんと呼んだのは、高宮くんに高宮さんではややこしい気がしたためだ。
 真一は、小さな声を漏らした。

「由紀はともかく、将に借りればよかったのか。でも、将のクラスにはあまり行きたくないんだよな。苦手な人がいる。さすがに呼び出すのは悪い気がするし」

「高宮くんにも苦手な人がいるんだね」

「それはいるよ。断っても理解してくれない人とかさ」

 彼は唇を尖らせ、すねたように口にした。

 確かに西岡さんも彼に好意を持っていたし、もてるだろう。
 だが、少々意外な気がした。

「由紀さんがわたしと高宮くんが話しているのを見て、また女の子に言い寄っているとか言ってたから、わたしはてっきり異性と付き合い慣れている人だと思っていた」