わたしが靴を履き終わるときには三島さんは既に玄関の外に出ていた。

 彼はわたしが家の外に出たのを確認すると、無言で歩き出す。無言で歩いている三島さんの背中を見ながら軽い罪悪感を憶えていた。三島さんの背中を凝視するのも躊躇いを感じ、目線を上空に移した。

 薄暗くなった空に幾つかの星が瞬いていた。ここは昔住んでいた場所と違い、星が良く見えた。

「そんなに空が珍しいのか?」

 突然聞こえてきた優しい声にわたしは驚いた。視線を前方に向けると、そこには目を細めて笑っている三島さんの姿があった。

 先ほどまでの彼とは全くの別人のようだった。

「ここはいっぱい空が見えるから。わたしの住んでいたところはこんなに空が見えなかった」

「あの辺りは街明かりがあるからな」

 三島さんは目を細めた。わたしはそんな彼の笑顔を消したくなくて、ただ頷いていた。そして、三島さんと千恵子さんの笑顔が似ているという共通点に気付いた。