わたしは一生に一度の恋をしました

 彼はわたしをじっと見ている。その視線がわたしに次の言葉を促しているようだ。

 何を言おう。まずは挨拶がいいんだろうか。

「よろしくお願いします」

 わたしは精一杯の笑顔を浮かべ、そう告げる。出来ればこれで次の会話が続いてくれれば良いのにといった願望を含んでいた。彼の口が動き、彼が何か言うのではないかと感じたときだ。

「三島さん」

 わたしの耳に凛とした声が届いた。だが、その口調は先ほどの高宮真一やわたしと話をしたときとは異なり、感情が篭っているように感じられた。

「ああ、久しぶり」

 淡々とした口調で由紀に話しかける。無表情の彼と対照的に由紀は頬を赤めて嬉しそうだった。由紀はこの男に好意を持っているのだろうか。

 三島と呼ばれた男はじゃ、と言い残すと廊下をゆっくりとした足取りで歩いて行った。

「知り合いなの?」

 わたしの言葉に由紀は笑顔を浮かべた。しっかりとした優等生のような印象とは一変し、この子にもこのような表情ができるのかという普通の女の子の顔だった。