わたしは一生に一度の恋をしました

 夕方六時を回った頃、家の周辺が騒がしいのに気付いた。マツさんが言うにはこの辺りでちょっとしたお祭りがあるらしい。

「行ってみていいかな?」

「一人で行けるかい?」

 マツさんの問いかけにわたしは頷いた。わたしは白いミュールを履くと家を出た。家を出ると、家の傍にある畦道に数人の人が歩いていた。見たところ中学生か高校生のようで、和気藹々と会話をしていた。彼女たちもお祭りに行くのだろうか。

 わたしは彼女たちと距離を取り、後をついていくことにした。彼女たちについていけばお祭り会場に迷わずにたどり着けるのではないかと思ったためだ。

 そんなわたしの視界を、オレンジ色の柔らかそうな光が横切っていった。わたしはその正体を見て、思わず声を上げた。それは蛍だった。蛍などテレビや本の中の出来事で、こうして目で見るのは初めてだった。

 刺さるような視線を肌で感じ、辺りを見渡した。先ほどの少女たちはわたしを不審そうな目で見ていた。わたしは思わず口元を抑える。この人たちには蛍が珍しいものではないのだろうか。それともわたし自身が不審に見えたのだろうか。わたしにはまだこの辺りには顔見知りがいないのだ。

 わたしを見ていた人たちの視線がわたしから逸れ、彼女たちは歩きだした。わたしは彼女たちの遠ざかっていくのを見ながら胸を撫で下ろしていた。

 わたしは辺りに人がいないのを確認すると蛍の動きを目で追っていた。不規則な踊りをしながら蛍は暗闇の中を舞っていた。