千恵子さんに促されてタクシーから降りると、目の前に木造建築の家があった。その家は大きく、わたしの住んでいたアパートの五倍ほどの広さはあるだろうか。千恵子さんはわたしの肩を軽く叩いた。

「どうかしたの?」

「大きな家だなと思って」

 千恵子さんはわたしの言葉に微笑む。

「向こうに比べてこっちは土地が安いからね。おばさんは先祖の代からここに住んでいるのよ。じゃ、行きましょうか」

 千恵子さんに連れられて、古びた木造建築物の前に立った。玄関には藤田と書かれた標識が掛けられていた。ここにわたしの祖母が住んでいるのだろうか。千恵子さんはわたしの肩を軽く叩く。

「大丈夫よ」

 わたしはその言葉に頷いてはいたが、不安は拭えなかった。

 千恵子さんは玄関のインターフォンを押す。すると、三十秒ほど時間が空いて、白髪交じりで頭をした細身の女性が玄関の扉を開けた。彼女の瞳がわたしに向けられ、見開かれる。

彼女の唇が僅かに震えているようだった。

「おばさん、この子がほのかちゃんよ。千明に良く似ているでしょう?」


 この人がわたしの祖母なのだろう。彼女の灰色っぽい目には涙が浮かんでいた。

「彼女は藤田マツさん。あなたのお祖母さんよ」