その言葉に思わず三島さんを見てしまった。三島さんの目が水で浸したように潤んでいた。 

 その瞳はわたしの決意を揺るがせた。だが、もうわたしの手に入らないものだと何度も言い聞かせ、首を横に振った。

「平気」

 わたしは下唇をそっと噛んだ。

「俺はやっぱり」

「だからもうあなたと会うことはない。わたしは誰かを傷つけてまで幸せになりたいと思わない」

 わたしの言葉に三島さんはそれ以上何も言わなかった。

 彼は唇を噛んだ。

「分かった」

「じゃあね。最後くらいお互いに笑おう」

 わたしの言葉に促されるように三島さんは表情を緩めたが、彼の瞳だけは笑っていなかった。今にも泣き出しそうな彼の瞳を見ると、心の奥が痛んだ。

「バイバイ」

 わたしにとってここ二ヶ月で一番の笑顔を浮かべたつもりだ。だけれど、笑った後、三島さんの顔を見ることができなかった。

 わたしは三島さんに背を向けた。歩くたびにわたしの足跡が刻み込まれていった。


 本当によかったのだろか。今、振り返って一緒に居たいと望めばわたしを選んでくれるのだろうか。もしくは、由紀とのことが片付くまで待っていると言えば、三島さんはわたしを受け入れてくれるだろうか。