「どうだろう。それも全くないとは言えないけれど、耐えられなかったのかもしてない。着実に進んでいく結婚話に。その娘さんもわたしたちの友達だったから、今後も二人の話を聞かされるでしょう」

 胸の辺りが締め付けられる想いだった。母親はどんな気持ちであの町を離れ、わたしを産んだのだろう。

「あなたのお祖母さんはあなたと一緒に暮らしたいと思っていると思うの。だからあの町に行ってそういった話になる前にあなたも知っていたほうがいいと思って。小さな町だから人のことをとやかく言う人間もいるし。嫌な思いをするかもしれない」

 彼女は短く息を吐いた。

「急に来てこんな話をしてごめんなさい。でも、知っておいたほうがいいと思って。それでもわたしはできるだけ力になるわ。だから、よかったら前向きに考えてみてね」

 わたしは頷いた。

 彼女は時計に視線を走らせた。

「何か困ったことはある?」

「今のところは大丈夫です」

「何かあれば連絡して。いつでも力になるわ」

 彼女は電話番号を書き残し、家に帰っていった。


 わたしのお母さん、お父さん、そしておばあさん。

 お母さん以外はその存在さえも実感がない。

 でも、おばあさんに会えるなら会いたいという気持ちがあったのだ。


 翌日千恵子さんに教えてもらった番号に電話を掛けた。わたしは祖母に会いたいということを率直に伝えた。受話器から聞こえてくる千恵子さんの声は明るく喜んでくれているように感じた。