「わたし、将ちゃんのお嫁さんになりたい」

 幼く、可愛らしい少女が芽を輝かせながら、同じくらいの背丈の少年に話しかけた。由紀だとわたしはとっさにそう思っていた。隣にいるのは三島さんのようだった。

「嫌だよ」

 三島さんは面倒そうに返事をしていた。由紀は三島さんの言葉に目を潤ませる。

「どうして?」

「誰とも結婚する気ないから」

 泣きそうだった由紀の表情が一瞬のうちに明るくなった。

「それなら妹にしてよ。将ちゃんの妹」

 わたしはそこで目を覚ました。もう太陽が昇っていた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。だが、あれがただの夢とは思えなかった。三島さんは由紀の言葉に頷いたのだろうか。わたしが彼に会うずっと前にこういった会話があの二人の間で交わされていたのかもしれない。

 妹という言葉がやけに現実味を怯えていた。彼女は三島さんの傍にいることを願っていたのだ。
 それが一方的な想いであればわがままととらえてもおかしくはない。だが、由紀の気持ちは痛いほどわかった。わたしも三島さんの傍にいたいと思っていたから。

 わたしは机の上に置いていた茶封筒に入った大学の願書を手に取った。わたしがいなければ、由紀をこれ以上傷つけなくて済む。

 わたしは唇を噛み締めた。力を込めて願書を破ろうとしたが、どうしても破る手に力を込めることができなかった。それは心のどこかで三島さんと一緒にいたいと思っているからだと自覚し、目から熱いものがこみ上げてきた。