「違うわ。千明はそういうことには神経質だと思うわ。知っている人は少なかったけれど、二人は本気で付き合っていたのよ。その人は千明よりも五歳年上で大学を卒業して既に働き始めていた。千明もその人もお互いとの結婚を望んでいたとは思う。でも、そうはならなかったの」

 彼女はそこで言葉を切る。

「家庭の事情とでも言うのかしら。彼は親の決めた相手と半ば強制的に結婚をすることになったの。その人の親の会社が潰れそうになってね、お金を貸してもらうことを条件に子供たちの結婚の約束を取り付けたの。親の会社や従業員の生活と、好きな相手との結婚。それをはかりにかけられてね。千明にも彼の両親から別れてくれと、頭を下げられたと後になって教えてくれた」

「両親が無理に決めた結婚?」

 ドラマや映画の世界みたいだ。

「少し違うかな。その人は資産家でね、年取ってからできた娘をたいそう可愛がっていたのよ。その娘さんが、千明の付き合っていた相手のことを好きで、そうなったの」

 わたしは彼女の言葉を理解して、千恵子さんの言葉に頷く。

「二人の結婚話は勝手に進んでいき、もうあなたの両親が拒める状態ではなかった。だから、千明は高校卒業を待って家を出たの」

「わたしがお腹のなかにいたから?」