「あなたは自分のおばあさんに会いたいと思う?」

 突然出てきた単語に戸惑っていた。確かにお母さんには親がいるはずだし、その親を高校の同級生である彼女が知っていても無理はない。

「今まで考えたことなかったです。ずっと二人でやってきたから。でもどちらかといえば会いたいかな」

 千恵子さんはわたしの言葉に笑みを浮かべる。

「良かった。きっとあなたのお祖母さんも喜ぶわ」

 おばあさんという単語は別の気になる現実をわたしにつきつけた。
 今まで気になっていたことを聞いてみることにした。今聞いておかなければ次はいつこの機会が来るか分からないからだ。

「やっぱりお母さんは家出ですか?」

 千恵子さんは目線を自分の手元に向けると頷いた。彼女の様子を見て、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないか、そんな不安が脳裏を過ぎた。

「家出といえば家出かもしれないわね。何も言わずに家を出たのは本当だから。ただ、わたしは家を出てから連絡をもらったの。あなたを妊娠していることと、一人で育てたいということをね。あなたを産んでから、実家のほうにはそのことを伝えたそうよ」
「産んでから」

 それはおろせと言われないためだろうか。

 彼女の目には涙が浮かんでいた。

「ごめんなさい。あなたにはきちんと話をしておかないといけないわね」

 千恵子さんはお茶に口を付けると、溜め息を吐いた。

「いつ千明が妊娠したかはわかる?」
「高校三年のときですよね」

 千恵子さんは頷いた。

「彼女には付き合っている人がいた。その人があなたのお父さん。でもその人は今別の人と結婚していてね。あなたより一歳下の子供がいるの」

「まさか不倫とか?」

 わたしの言葉に千恵子さんは苦笑いを浮かべていた。