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訳も分からないまま、気付けば部屋を飛び出していた


まさか糸夜さんが…


考えただけで、胸がグッと苦しくなる


そんなはずはないと何度も自分に言い聞かせても、頭がそれを許してくれない


信じたくない


あの人たちと糸夜さんが、知り合いかもしれないなんて…


けれど…、、


電話の向こうの声は、確実にあの人のものだった


あの声を忘れたことはないから、よく覚えています


………本当、に…?


優しかった糸夜さんが急に怖くなったりしたのは、本当は私をいやいや傍に置いていたから…?


「ッ……ヒクッ…」


時々優しく接してくれていたのは、いずれ私を引き渡す為…?


全ては、私を油断させるため……


「ッ……ふ、ぅ…」


怖い…


苦しい…


目尻から次々と流れてくる水滴を拭うのも億劫で、そのままでいれば感じる複数の視線


前に来た時には見向きもされなかったのに…


今居るのは、数日前に逃げ出そうとした時に間違えて降りたフロア


また、同じ間違いを繰り返していた


「ヒクッ……ッ…」


もう、どこでも良いから早くこの場所から離れたい


芦屋さんに連れられた非常階段をひたすらに降りて、呼吸が荒くなってきた頃、ようやく階段を降りきった


目の前にある分厚い鉄の扉を開ければ、眩しい光に包まれる


眩しさにギュッと目を瞑った


冷たい空気と共に、車の走る音や人の歩く音、信号機の青になったら鳴る音楽が聞こえてきた


1歩外へ踏み出せば、そこからは早かった


敦士さんの家の方角なんて分からなかったけれど、兎に角走った


もう、糸夜さんの所には戻れない…