「美依恋…、、
誰も取らないから、ゆっくり食べようか?」


そんな事を言われても、スプーンが止まらないんです


こんなに美味しいオムライスを食べたのは初めて!


「気に入ったか?」


お昼のピークが過ぎたのか、さっきまで忙しなく料理をしていたコックさんが、カウンターへ肘を付きそう聞いたから、直ぐに頭を縦に振った


"美味しいですッ!!どうやったら、こんなにフワフワな卵に出来るんですかッ!?"


興奮してそんな事を伝えても、コックさんはポカーンと口を開けたまま固まっている


この気持ちをどうにかして伝えたくて、コックさんへ抱き付けば、少しの沈黙の後、、


「ッ……おいおい…、、何なんだよ、この可愛い生き物ッ!?」


何故か私よりも興奮気味のコックさん


ゴツゴツとした大きな体にぎゅうぎゅうと抱きしめられる


だけど、それも一瞬の出来事で、、


「勝手に、触らないでくれる…?」


「「ッ……」」


ゴツゴツしたものから、馴染みのある腕の中へ囲まれていた


フワッと香るシトラスの香りは、糸夜さんの匂い


私を縫いぐるみのように抱く癖のある彼は、いつもの様に膝の上へ私を横抱きにした


周りには、まだ食事中の従業員さん達がいる


恥ずかしい…


「いい子だから、大人しくして。ほら、まだ残ってるよ?あーんして」


確かに、まだオムライスは残ってる


…………彼には、何をしても敵わないってことも知ってる


素直に口を開けて待てば、さっきまでの怖い顔はどこへやら…


満面の笑みで食べさせてくれた


「"仕事の鬼"と呼ばれた社長が…
なぁ、嬢ちゃん。どうやってこの気難しい男を落としたんだ?」


………落とす…?


「煩いよ、佐野-サノ-。早くデザートを出しなよ」


ピシャリと私とコックさんの間を切り離した糸夜さんは、再び私へスプーンを向ける


お仕事……しなくても良いのだろうか…?