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糸夜side


やってしまった…


気を飛ばした彼女を見て、芯まで茹だっていた熱が一気に冷めた


腕の中で眠る美依恋


ずっと、、この手に抱いてみたいと夢見ていた


そう夢見て10数年…


もしもその夢が叶う時には、どんなものからも守ってやろうと思っていたが…


コンコン


「社長………、眠ってしまったの?」


「あぁ」


「寝かせてあげたら?」


紺野の親父を下まで見送っていた百合-ユリ-が、気を利かせてそう言うが、断った


本当は、一時でも離れたくはない


高校へ行かせるのも、ミツキに護衛させるのも本当は嫌なんだ


「葵にとって、その子は何なの?」


「会社では名前を呼ぶなと言っているだろう」


「誰も聞いちゃいないわよ。ねぇ、もしかして……その子が、昔言ってた"守りたい子"なの?」


「……そうだよ。この子が俺の宝物」


「………」


いい年した男が"宝物"なんて笑えると思う


人をモノ扱いするのも、大人としてモラルにかけてるだろう


それでも、美依恋は何にも変え難い大切な存在なんだ


宝のように、俺だけが知る場所で俺だけが愛でられる存在ならばどんなに良いか…


「君も今日は帰って良い。俺は残りを片付けてからこの子と帰るから」


「っ……分かったわ…」


美依恋の寝顔を見ていた俺は、百合がどんな表情だったかを知る術もない


"どんなことからも守る"


美依恋を欲しいと思った時から、根っこのようにどんどん大きくなるその感情は、今だ膨れ上がるばかり


だから、美依恋から大切なモノを奪ったあの女を、俺は許さない


長いこと海外へ渡っていたソイツ


近い内に帰国するとの情報が入っている


ただでさえ厄介な女に、今だ美依恋を探し続ける松坂組の若頭も、最近では大掛かりな捜索に出るとの噂もある


「……ハァ」


これまで通りの生活って訳にはいかなくなるだろう