「美依恋、おいで」


「ッ…」


さっきまでの表向きな糸夜さんはもういない


今は裏。完璧に裏側の糸夜さんだ…


低い声に、瞳どころか表情さえも笑ってはいない


「聞こえなかった?早くおいで」


腕を組み、真っ直ぐ私を見つめる糸夜さんにゆっくりと近付けば、


「ッ…!」


長い腕で腰を引かれ、彼の懐へ飛び込む形になってしまう


紺野さんもミツキさんも、あの綺麗な人も今はこの部屋にはいない


だだっ広い部屋に糸夜さんと私だけ


「紺野の親父にしたように、俺にはしてくれないのかな?」


見上げれば、綺麗なクリーム色の髪が私を見下ろしている


いつから、でしょう…


物腰の柔らかかった糸夜さんが、こうも威圧感をバシバシと向けてくるようになったのは…


だけど、この姿が彼の本来の姿なのかもしれない、そう思うようになったこの頃です…


「へぇ……そんな態度とるんだ?」


紺野さんに抱きついた様には出来なくて、彼の腕の中から逃れようともがいた


だけど、拘束する腕の力が強まっただけ


「ッ……!!」


突然、重なり合った唇


やめて欲しいけど、そう簡単に放してくれないのを、私はもう知っています


「ッ……ハァ、ッ…」


ここ数日、何度も繰り返されたこの行為


ザラりとした舌が私の付け根を刺激し、張っていた力が抜けていくのが分かる


そこが私の弱点だとばかりに執拗に刺激してくる糸夜さん


頭に白い靄がかかった時、ようやく解放してくれる


薄れゆく意識の中、見えるのは苦痛に歪む糸夜さんの顔


いつも、そう…


そんな表情をするなら、どうしてこんな事を…