「千瀬もおそろいで持ってたはずなんだけど、そういえば1回もつけてるの見たことないな。

……莉胡と約束したから、って作ってたのに」



「……え?」



とあるワードが引っかかって、訊き返す。

"約束"って……なに?



何かとんでもなく大事なことを忘れているような気がして、心臓がはやまる。

わずかに震えそうになる声で約束のことを聞けば、ちあちゃんは「憶えてないの?」と口にして。



「幼稚園に通い始めた頃の莉胡って、千瀬のこと大好きだったでしょ。まあ今もだろうけど。

そのときに、なんだっけ、お遊戯会かな。……それで莉胡がお姫様役だったときに、相手の王子様が千瀬じゃない別の男の子だったんだよ」



「え、そんなことあったっけ……」



思い返すけど、そんな記憶はない。

小さい頃の千瀬のことは覚えているけれど、どんな言葉を交わしたのかももう、ほとんど記憶になかった。




「そのときに莉胡ってば、相手が千瀬じゃないなら嫌だって泣きじゃくってさ。

幼稚園の先生も完全に困っちゃって、親にも説得されたけど、嫌だって聞かなかったでしょ」



「ごめん全然覚えてない……」



「でも最終的に、莉胡はその子とお遊戯会でちゃんと演技したんだよ。

……千瀬と、約束したから」



「………」



「シンデレラのアレンジで、ガラスの靴じゃなくて月のペンダントが出てくる話だったからさ。

千瀬が、「いつか俺が莉胡に本物のペンダントをあげるから」って。その約束で莉胡ってば簡単に泣き止んで、ちゃんと頑張ってたでしょ」



──ああ、そう、だ。

どうしてわたし、忘れてたの。



『いつか俺が莉胡に本物のペンダントをあげるから。

──それまでずっと莉胡は俺のいちばんで、莉胡のいちばんは俺だよ』