バスが動きだしてから、20分もした頃だろうか。 「じゃあまずマイク回すから、簡単に自己紹介していけ」 一番前の列を陣取る教授の指示の下、カラオケのような長いコードの付いたマイクが回される。 ぐだぐだで収拾のつかない自己紹介はそれでもなんとか進み、俺は後ろから回ってきたマイクに適当に名前を告げて、香田さんに差し出した。 「はい」 「……りがとう」 あ、がかすれて聞こえなかった。 タオルハンカチを右手に握ったまま、小さな声で淡々と名前を述べる。 最初と同じ、姓だけを。