君の声が、僕を呼ぶまで

目は口ほどにものを言う、とはこの事だろう。

何が起こったか分からないという、視線を彷徨わせる驚きの目。

やがて、少しずつ状況を呑み込めてきて、改めて驚いている事により見開かれる目。


「保健室の壁って薄いんだよ。こういう事する若者対策だろうけど」

抑え込んでいる右手に、桜子の、小さく荒い息遣いを感じる。

「だから、あの2人のやり取りも、廊下から何となーくだけど、薄ら聞こえてたんだよね」

また、桜子の顔が赤くなった気がする。


「何、思い出しちゃった?」

さっきまで涙で潤んでいた瞳で、キッと睨まれた。

何か、いいね、ゾクゾクする。


「それとも、こうされてる事に興奮してるの? …いった…」

呼吸だけはしやすいようにと、少し浮かせていた右手の隙を突いて、桜子が噛み付いた。

「さっきみたいに叫ぶと外に聞こえるって、本当だからね」

俺は溜息をついて、桜子の口を解放した。