それからしばらくして、相模の体はもう、どこにもなかった。

すべて、紫織ちゃんが食べたのだ。


「私のことも……やっぱり、食べてしまうの?」


私が、紫織ちゃんにたずねると、紫織ちゃんは首を振った。


「どうして?」

「だって、アナタもう美味しそうじゃないもの。

もう恐怖の感情もなく、涙も流さない、絶望もしない。

アナタ、すっごくまずそう。

私が敏のことを食べないのも、同じ理由よ」

「…そう」


いっそのこと、みんなと同じように食べられてしまったほうがよかったかもしれない。

仲間を助けるとか救うとか言っていたくせに、私は結局誰の命も救うことはできなかった。


今だって、相模に助けを求められたのに、私は助けなかった。


私はもう、人間としておかしいのかもしれない。


もう、自分が生きている意味がわからない。


そのとき。



「なあ、八衣…」


敏が、私の名前を呼ぶ。


「何よ…」

「お前さ……」






***