『…はい』


小さく、コックさんは返事した。

その直後、パンと乾いた音が館中に響いた。


一瞬、私は何が起こったのかわからなかった。


『おやめください、旦那様!』


というメイドの声がして、ようやく目の前で何が起こったのか理解できた。


お父様が、コックさんの頬をぶったのだ。


倒れたコックさんを見下ろしながら、冷たい目と冷静な口調でお父様はこう言った。


『お前は、クビだ』


私やお母様に酷い扱いをしていることを警察や周りの人間にバレることを恐れたお父様は、コックさんのことを警察には言わなかった。

なので、コックさんが逮捕されなかったことは、不幸中の幸いだった。

被害者のじいやも軽傷で、コックさんが自分を殴ったことに関しては怒っていないという。


コックさんが館を出た日、私は自分の部屋から出ることを禁じられた。